寫眞と文

中川シゲオの寫眞と文章です。

2018年08月

愛の夢-2-

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 フェースブックで友達になろうと言ったのは浩介からだった。戎橋から見るグリコの前で、何カットか撮った写真を送りたいということで、志保のページを開かせ、友達登録させたのだ。喫茶店にいたのは30分ほどで、FBで友達になって店を出、志保は地下鉄御堂筋線の心斎橋に戻り、啓介は道頓堀の歓楽街に入っていった。
「いい子だよな、擦れてないよな、ピアニストかぁ、そうなんだ」
 いましがた別れた志保を、可愛くて清楚な女子学生だと、啓介は思った。うわずった気持ちで別れたけれど、ネットでつながったから、それ以上のことを、いまは知らない。
 志保にしても、イケメン啓介に好感をもった。27歳だと言った、フリーランスのカメラマンと言った。とはいってもブライダルの撮影チームに所属しているのだと言った。カメラマンという職業を、志保は素晴らしい仕事だとは思えなかったけれど、クリエイティブな仕事だとは、思った。まだ大学の三年生という身分では、これから就職していかないといけないところ。ピアノは好きだけど、ほかになんのとりえもない女子学生だ。ピアニストになんてなれないけけれど、何ができるのか、多少は器量が良いから、モデルになろうかしら、とはほのかに思っても、プロダクションへ入る知恵もないから、それは夢のなかの話だ。
「ああっ、来てる」
まだ帰りの阪急電車のなかで、志保は、先ほど撮られた写真を、メッセンジャーに添付されて手元に届けられた。グリコの看板を背にして、手をあげているポーズ。それとプロフィール写真に使えそうな上半身正面の写真。
「ありがとうございます!」
志保は、お礼のメッセージを送り返した。啓介のメッセージには次のことが書かれてないから、素保は、このまま、もう、終わる。たぶん、終わる、と思った。イケメン男子の向井啓介さん。彼がいない歴二年の志保には、その啓介に、かなりの興味を持った。彼に、彼女が、いるのかなぁ、と志保は思う。まさか結婚してる、なんてことはないと思うけど、それにしても、いい人そう。志保には、大学生になった当初、つき合った彼がいた。からだを求めてきたから断って、気まずくなって、縁が切れていった。19才の夏から秋にかけての出来事だ。キッスして、からだを求められたのは、繁華街から裏手に入ったところのラブホテルへ連れ込まれそうになったとき。彼の手を振り切り、そのままひとりで部屋へ帰って、青ざめて泣いた。
「恋してもいいかなぁ、恋したいなぁ」
部屋でひとり、つぶやきながら、啓介のページを手繰ってみる志保だ。旅行好きらしい。京都や奈良の観光写真を、フェースブックでアルバムにして載せているのを志保は発見する。観光写真のなかに、女子が写ったのがある。行った先でモデルになってほしいと依頼して、承諾されて載せられているのだと志保は思う。わたしは載せること断ったから載せないと思うけど、と思いながら、啓介の顔を思い浮かべるのだった。

愛の夢-1-

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 向井浩介が心斎橋にあったヤマハの店へいったとき、偶然にピアノの楽譜の棚の前にいた女の後ろ姿を見つけた。淡い水色の水玉模様の、ノースリーブのワンピースを着たその女は、リストの愛の夢の楽譜を手にしていた。浩介は、肩にかかった黒髪から背中、細まったウエストから広がり下りるフレアスカートに、さわやかな色気を感じた。クーラーが効いた店内だから、汗はかかなかったものの、握った手は汗にまみれていた。女は学生なのだろうか。浩介にはその女が若くて器量が良くて音大の学生のようにも思えた。知らない女だし、知り合いになりたいと思うが、そのとっかかりが見つからない。楽譜を買った女は、手提げのカバンをさげて店を出た。浩介がそれとなく後を追う。戎橋にまできて、女は立ち止まった。アーケードがない橋の上は、太陽が眩しい光を降ろしている。
「あのう、写真を、撮らせて、いただけませんか」
 立ち止まってグリコの看板を眺めるようにしている女に、浩介は思い切って声をかけた。ナンパするのだ。手にはキャノンのカメラを持っているから、女は、ふりかえり、浩介を見て、怪訝な顔をしたが、カメラを持っているのがわかって、戸惑った様子を見せた。
「あのう、あなたは、写真家のかた、でしょうか」
 戎橋には沢山の女たちが手に手にカメラを、スマホを構えて、グリコの看板を背に、ポーズを取りながら写真に撮られていた。その女たちのように、写真を撮らせてほしいと、女は察しがついた。
「ええ、いいですけど、ネットには、のせないでほしいですけど」
 女は、浩介に声をかけられ、まんざらでもない反応を示した。写真を撮って、浩介が誘う。アーケードのなかの喫茶店へ入る。この女は、どこまでつきあってくるだろうか、浩介の脳裏にちらちら、この女の可愛さと可憐さが混在したような薄化粧の女に、胸をときめかせた。
 女の名は志保といった。大川志保。大学の三年生で音大ではなくて私立大学、社会学部の学生だと云った。
「ええ、ピアノは、子供のときから習っています、ピアニストになりたいと、中学の頃は、おもったことがあったけど、それほどの才能もないから、趣味、です」
 志保は、浩介のまえで、ためらうことなく、話した。志保には、向井浩介と名乗った男が、映画にも出演するタレントに似たマスクで、好男子だと感じたのだった。



はじめに

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何時の事だったか、それはそれは凄い恋をしたことがあった。
街の中で会って、その時は未だ手を握り合うこともなかった。
地下街の安い珈琲を飲ませる店に入って、見つめあったものだった。
恋してる、あきらかに恋してると思った。
二つの体が、向き合って、その奥になにを隠しているのか。
物語は、彼女が、ぽつりぽつりと話しだすことから始まった。
何故来たのかわからない、と彼女は云った。
時の流れの中で、たまたま、ぼくに出会ったというだけだと云った。
恋してる、ぼくはそう思ったが、言葉に出すことはなかった。
人の数だけ哀しみの数があって、わたしの哀しみは、わたしの哀しみ。
また、会おう、と次の日時を約束することなく、別れた。

ブログをつくりました

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あたらしくブログをつくりました。
よろしくお願い申しあげます。

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